Arteryex株式会社 代表取締役社長 李 東瀛 氏
『医療のシェアリングエコノミーを目指す』

「個人のデータは個人で管理できる世界を実現する」 ブロックチェーン技術で医療のシェアリングエコノミーを目指す

ブロックチェーンによって安全性を担保したうえで、個人が対価を得ながら医療情報を活用できる「医療データのシェアリングエコノミー」実現を目指し、Arteryex株式会社を創業。エンジニアとコンサルタント両方の視点を持つ李氏より、医療分野のデジタル化の課題や医療ブロックチェーンの可能性について伺いました。

 

医療×デジタルをエンジニアの視点から実現

父が起業家だった影響もあり、学生の時から個人事業でエンジニアとしてサービスを作っていました。あまり就職するというイメージはなかったのですが、自分ひとりでできないような大きなビジネスに組織として取り組みたいと思い、日本IBMに就職しました。そこでの肩書はコンサルタントでしたが、実質インフラエンジニアとして仕事をしていました。

 

会社の中で働いていて、お客様が実現したいことと、コンサルタントの提案にギャップがあることが課題だと感じていました。どんな技術で実現するかまで落とし込んだうえで提案できたほうが、お客様にとっても、開発するこちらにとっても、お互いWin-Winです。それで、自分が提案する側になろうと思い、コンサルファームで経験を積んだのち、独立しました。

 

 ヘルスケアの分野は、IBMのプロジェクトで初めて携わりました。そこで、医療の分野で、まったくデータが活用されていないことに気が付きました。

医療の専門家でない素人の感覚からすると、医療のデータって関連機関で共有されていて、研究開発等に使われていると思っていたのですが、実は全くそうではない。

アメリカだと、日本とは違い、個人データがやりとりされていて、個人に対してオプトインで情報開示を求める仕組みがあります。日本の医療にも、もっと医療データを活用できるための仕組みを作れないかと思い、Arteryexを創業しました。

 

組織でデジタル領域のプロジェクトを実施する上での課題

要件定義する側に、技術の知識が必要だと思います。エンジニアには、それぞれ得意技術、得意分野があるので、各プロジェクトでどの技術が必要かということまで決めてからエンジニアをアサインするべきです。また、技術力だけでなく、対象となるお客様の業務にも精通している必要があります。たとえば、電子カルテの診断結果のデータをもとに保険金請求をワンタップで行えるアプリを作りたい場合。このとき、アプリ開発で有名だからと言って、DeNAでゲームを作っていたスーパーエンジニアをアサインしても、難しいですよね。

僕が所属していた企業は外資系でしたが、プロジェクトごとに、適材をアサインするという文化がありました。

 

創業して、大企業から再びコンパクトな組織に

いろんなことに取り組みたい性格なので、医療やヘルスケアの分野だけにずっと特化するということでもありません。

新しい技術が好きで、誰よりも早く手を動かしてサービスを作れるようになりたい。それで、いろんな業種・業界に提供できるようになればいいと思います。

専門という専門ではないですが、フルスタックにブロックチェーンはじめ、ウェブ、アプリ、インフラ、ネットワーク回りなど、全般的に扱えるので、一人でもある程度のアプリやサービスを構想から作成までできるのが楽しいところですね。    

 

医療ブロックチェーンを活用した今後のビジョンについて

一つのビジョンはデータの分散化です。つまり、自分のデータを自分で管理できるようになるという世界です。これは医療に限らず、金融、小売等どの業界にも当てはまる考え方だと思います。

例えば医療の分野であれば、医療機関や、服薬の記録は、自分で持っていませんよね。今までどんな薬を飲んだか、どんな治療を受けたか、そのときどんな副作用があったか・・・

そのデータは、その時かかった医療機関がばらばらに持っているんです。それを、患者自身で管理できるようにしたいということです。

 

 どの業界でも、より個人にカスタマイズされたサービスが増えていく流れがあり、情報を中央的に管理するのは難しいということがわかってきました。医療の世界でも、この10年「データウェアハウス」という巨大なデータベースでデータを統合しようとしていましたが、なかなか進みませんでした。集中管理が難しいなら、そもそも統合せずに、個々のデータベースで持ったまま、それぞれのデータベースにアクセスしに行くという構想が、分散型台帳の考え方です。

今のブロックチェーンの課題は、膨大なデータの取引について。例えば医療でブロックチェーンの活用が広がると処理能力が足りなくなり取引が遅延することや、そのブロックチェーンネットワークに参加するのに非常なハイスペックなサーバーを要求されることになります。これを代替できる技術が何か、今模索されているところです。    

今Arteryexで提唱しているのは、「医療データのシェアリングエコノミー」です。つまり、患者のデータを研究開発等で利用する場合は、患者にデータの使用料を支払って、正々堂々と使わせてもらうということです。

ただ、このビジネスのコンセプト自体が日本では新しいので、今は実証実験段階です。

 

「健康銀行」という、健康管理をすることでポイントがもらえるアプリをリリースしましたが、これも個人が自分の健康情報を記録する手段の一つです。アプリサービスで終わるのではなく、シェアリングエコノミー構想の実証実験の第一歩と考えています。

プロフィール

【李 東瀛】

 

2014年東京都市大学知識工学部情報科学科卒業。14年〜17年日本アイ・ビー・エム株式会社にて、ERP導入や業務改革、システム開発等の幅広いIT関連プロジェクトに従事 16年IBMに勤務する傍ら、友人のブロックチェーンベンチャーの立ち上げに参画し、ブロックチェーンを活用した事業構想とシステム設計を経験。17年KPMGコンサルティングに入社し、官公庁に向けた最新ICTの活用戦略や、一般企業へ向けたICOコンサルティングサービスを提供し、18年3月より現職。

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